「AVTuberと商標」の版間の差分

R Train (トーク | 投稿記録)
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項目「YouTubeガイドライン(『Tuber使用制限』ルール)に法的拘束力はあるか」を新規記事「Tuber」関連語に対するGoogleの姿勢へ分離し、代替として小項目「『Tuber』関連語に対するGoogleの姿勢」を設置
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実際、'''「VTuber」を商標登録しようとした事例'''([https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2020-087183/40/ja 商標出願2020-087183]・2021年11月11日拒絶査定)'''において特許庁は'''、この出願商標は消費者等が「動画配信をする仮想キャラクター(VTuber)に係る商品・役務であると認識するにとどまり」、「当該認識を超えて'''自他商品・役務の識別標識としては機能しない'''ものというのが相当」とした上で、法第3条第1項第6号に該当するため'''商標登録できないと判断した'''(2021年6月9日付け拒絶理由通知書<ref>法第15条の2に基づき、審査官が出願人に対して拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与える通知書。出願人が意見書を提出しない場合は拒絶査定となる。</ref>から引用)。
実際、'''「VTuber」を商標登録しようとした事例'''([https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2020-087183/40/ja 商標出願2020-087183]・2021年11月11日拒絶査定)'''において特許庁は'''、この出願商標は消費者等が「動画配信をする仮想キャラクター(VTuber)に係る商品・役務であると認識するにとどまり」、「当該認識を超えて'''自他商品・役務の識別標識としては機能しない'''ものというのが相当」とした上で、法第3条第1項第6号に該当するため'''商標登録できないと判断した'''(2021年6月9日付け拒絶理由通知書<ref>法第15条の2に基づき、審査官が出願人に対して拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与える通知書。出願人が意見書を提出しない場合は拒絶査定となる。</ref>から引用)。


==YouTubeガイドライン(「Tuber使用制限」ルール)に法的拘束力はあるか==
===「Tuber」関連語に対するGoogleの姿勢===
SNS上ではしばしば「Tuberという語はGoogleの管理下にある」「勝手に使うと危険」といった論調が見受けられるが<ref>株式会社PANDORAによる「XTuber」の商標登録([https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2025-045833/40/ja 登録第7013107号])の際にも見られた。[https://www.itmedia.co.jp/news/article/2603/17/1260317113/ 「XTuber」を商標登録した──あるVTuber企業の発表が物議 「YouTubeのガイドライン違反では?」 出願経緯を聞いた]参照。</ref>、その際によく引用されるのが、以下のYouTubeガイドラインの「Tuber使用制限」ルールである。
なお、GoogleはYouTubeブランドガイドラインの一節'''[https://brand.youtube/naming-and-third-party-content/#youtuber 「ユーチューバー」という言葉を使う]'''において、クリエイターや広告主に向けて「Tuber」関連語に一定の使用制限を課している(「Tuber」使用制限ルール)。SNS上では、これを根拠に「Tuberという語はGoogleの管理下にある」「勝手に使うと危険」といった論調が見受けられる<ref>株式会社PANDORAによる「XTuber」の商標登録([https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2025-045833/40/ja 登録第7013107号])の際にも見られた。[https://www.itmedia.co.jp/news/article/2603/17/1260317113/ 「XTuber」を商標登録した──あるVTuber企業の発表が物議 「YouTubeのガイドライン違反では?」 出願経緯を聞いた]参照。</ref>


<blockquote>
また過去に、Googleは特許庁に対して「Tuber」関連語の商標登録の無効や取消しなどを求めたことがある。
'''[https://brand.youtube/naming-and-third-party-content/#youtuber 「ユーチューバー」という言葉を使う]'''
*'''クリエイター向けガイドライン'''
:多くのクリエイターが自らをYouTuberと呼んでくれるのは大変嬉しいことです。ただ、'''「YouTuber」または「Tuber」という言葉は、YouTubeにオリジナルの動画や音楽コンテンツを制作・アップロードしている人を指す場合にのみ使用していただきたい'''と考えています。
:また、「YouTuber」という言葉は、誰もが気軽に使えるように、カジュアルな表現にしたいと思っています。そのため、'''動画シリーズ、書籍、番組などの正式名称に「YouTuber」や「Tuber」を使用'''したり、これらの言葉を含む'''ドメイン名、チャンネル名、商標を登録'''したりすることは'''ご遠慮ください'''。これは、クリエイターコミュニティ全体のためにYouTubeの商標を保護する上で役立ちます。
*'''広告主向けガイドライン'''
:'''「Tuber」という言葉は'''YouTubeクリエイターが非公式に使用することはあっても、'''広告主が使用すべきではない'''。
''2026年8月27日閲覧・自動翻訳<ref>なお、英語原文は以下のとおり。<br>'''Using the word “YouTuber”'''
*'''Guidelines for creators'''
:We love that so many creators like to call themselves YouTubers. We just ask that “YouTuber” or “Tuber” is only used when talking about a person creating and uploading original video or music content to YouTube.
:We also want to keep "YouTuber" casual. That way everyone can use it. So please don’t use “YouTuber” or “Tuber” in official names of things like video series, books, and programs, or register domains, channel names, or trademarks that include those words. This’ll help us protect the YouTube trademark for the whole creator community.
*'''Guidelines for advertisers'''
:While “Tuber” can be used by YouTube creators informally, it should never be used by advertisers.</ref>''
</blockquote>


しかしこのルールは、SNS上で語られるほど明快な法的拘束力を「Tuber」関連語に対して有しているわけではない。以下、いくつかの観点から整理していく。
ただし、これらの事例からGoogleが「Tuber」関連語一般について商標権を有し、第三者による使用を包括的に制限できると解することはできない。詳細については[[「Tuber」関連語に対するGoogleの姿勢]]を参照。
 
なお、この節における主要論点は'''「Tuber」関連語の使用に制限がかかるか否か'''であり、構成もそれを前提としている。その他の論点には原則としてフォーカスを当てず、不正競争などに該当するような悪質な使用態様ではないことは、当然の前提として論じる。
 
===そもそも誰を拘束するルールか===
このガイドラインは、その名称('''クリエイター向けガイドライン'''・'''広告主向けガイドライン''')からも明らかなとおり、YouTubeというプラットフォームの利用者(クリエイター・広告主)に向けて示された内部ポリシーである。したがって、その効力はYouTubeで活動する者に限られると考えられ、'''YouTubeを活動の場としていない配信者・事業者は、そもそもこの規定の名宛人ではない'''<ref>一例を上げると、[[Voifull]]専属AVTuberの大半が該当する。</ref>。
 
なお、ガイドラインには「'''『YouTuber』または『Tuber』という言葉は、YouTubeにオリジナルの動画や音楽コンテンツを制作・アップロードしている人を指す場合にのみ使用していただきたい'''」と記述されており、少なくとも「Tuber」という語を使用する場面としてYouTube上での活動を明示している。ただし、この記述は「Tuber」という語を誰について用いるべきかというGoogleの考えを示すものであり(後段の「ご遠慮ください」「使用すべきではない」などの措置を行う理由の背景情報の扱いである)、それ自体から'''ガイドラインの契約上の名宛人や法的拘束力の範囲まで確定するものではない'''。また、「Tuber」関連語について、'''YouTubeを利用していない者による使用まで禁止する旨が明示されているわけでもない'''。
 
===「拘束力」の対象と有無===
AVTuberとして活動する者の中には、配信本体は他プラットフォームで行いつつ、告知・アーカイブ・ダイジェスト等の目的でYouTubeを併用している例は少なくないと考えられる。そうした場合にはYouTubeを利用する場合の想定も必要になってくるため、以下検討を続ける。
 
YouTube利用者については、'''ガイドラインによる契約上の拘束の問題'''を考慮する必要が生じるが、それと'''「Tuber」という語についてGoogleが第三者に対して商標権その他の法的権利を有するかという問題は別である'''。ガイドラインに記載されていることだけをもって、Googleが「Tuber」という語を一般的に独占できることになるわけではない。
 
前述のSNS上の論調のように、この「Tuber使用制限」ルールがGoogleによる強力な法的拘束力を伴うと認識される場合があるが、Google側は少なくとも日本において、「YouTuber」や「Tuber」といった語句そのものを、広範に独占する形で商標登録していない(J-PlatPat検索結果:2026年8月現在)。つまり、「Tuber使用制限」ルールが存在することをもって、Googleが「Tuber」関連語に関して商標権と同様の権利を行使できるわけではない。
 
===「VtuberBaseball」異議申立事件が示すもの===
なお、この「Tuber使用制限」ルールが商標権を巡る争いに持ち出されたことがある。登録商標「VtuberBaseball」([https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2019-170564/40/ja 登録第6324800号])に対しGoogle側が異議を申し立てた事例(異議2021-900058:2022年1月12日決定)がある<ref>J-PlatPat掲載ページの「全部異議2021-900058」をクリックすると審決(商標登録維持)の全文を読むことができる。</ref>。
 
この異議申し立てにおいてGoogleは、「YouTuber」「VTuber」がYouTubeから派生した標章であり、動画投稿者にその使用を許容する一方で自らは商標登録していないという運用方針(本件ガイドライン)をはじめとする複数の根拠を元に、本件商標の登録は法第4条第1項第7号(公序良俗)、同項第11号(類似)、同項第15号(混同のおそれ)に違反すると主張した。
 
これに対して特許庁は、'''Googleがこのようなガイドラインを作成していること自体は認めた'''ものの、
*「YouTuber」「VTuber」が一般に広く知られた語であることは認めつつも、それらが'''Googleの業務に係る商品又は役務を表すものとして使用され、広く知られていたといい得る証拠を見いだすことはできない'''として、'''Googleの業務に係る商品・役務を表示する商標として周知著名であるとは認めず'''
*'''本件商標権者がGoogleの事業を妨害するなどの不正な目的を有していたことを裏付ける証拠も見いだせない'''
と判断し、上記いずれの規定にも該当しないとして、商標登録を維持した<ref>なお、Googleはこの「Tuber使用制限」ルールについて、単に自社の利益を守るためのルールというだけではなく、動画作成者が「YouTuber」や「Tuber」といった語を自由に使用できる環境を維持することが、表現の自由に寄与するという公益的な役割を有する旨も主張していた。しかし、特許庁の審決における法第4条第1項第7号の判断では、この公益的意義を独立した判断理由として評価するのではなく、「YouTuber」「VTuber」がGoogleの業務に係る商品・役務を表示するものとして広く認識されていたか、本件商標権者にGoogleの事業を妨害するなどの不正目的があったか、といった観点から判断している。したがって、この審決は、Googleが主張した「表現の自由に寄与するという公益的役割」そのものの当否を判断したものではない。</ref>。
 
この審決は、「YouTubeのガイドラインには法的拘束力がない」と判断したものではなく(そもそもガイドラインの内容に対する踏み込んだ判断自体を行っていない)、'''Googleのガイドラインの存在自体は前提とした上で、それだけでは公序良俗違反や不正目的の証拠にはならないと判断したもの'''である点は注意が必要である。もっともこの審決の結論としては、「'''『Googleのガイドラインに違反する』という主張のみでは、本件商標の権利関係を左右できない'''」であった。また、ガイドラインの存在だけから「Tuber」がGoogleの独占的なブランドであるとも認定していない点も重要である。
 
===実務上の運用実態===
なお、「Tuber使用制限」ルールは、「Tuber」という言葉についてYouTubeクリエイターによる非公式な使用を認めつつも、広告主による使用を強い言葉で制限している。
しかしながら実態として、'''「VTuber」を含む登録商標を名称とする公式媒体・公式チャンネルが、実際にYouTube上で複数継続的に運用されている'''という事実がある。以下の表でそれを示す。
 
{| class="wikitable" style="text-align:center;white-space:normal;"
|+ 「VTuber」関連商標権者による公式YouTubeチャンネル運用状況
! style="width:8em;" | 商標 !! style="width:9em;" | 登録番号 !!  style="width:4em;" |区分 !!  商標権者 !! style="width:8em;" | 登録日 !! style="width:15em;" | YouTubeリンク !!  備考
|-
! 戦国Vtuber
| [https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2019-028388/40/ja 登録第6206906号] || 第9類<br>第16類 || style="text-align:left;" | 株式会社マッシュ || 2019年12月13日 || [https://www.youtube.com/channel/UCF2oRTAcylNhForFasagzfw] || style="text-align:left;" | 商標権者は[https://www.sengoku-vtuber.jp/ 戦国VTuberプロジェクト事務局]運営
|-
! VTuber Fes Japan
| [https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2021-000445/40/ja 登録第6490816号] || 第9類<br>第35類<br>第38類 || style="text-align:left;" | 株式会社ドワンゴ || 2021年12月23日 || [https://www.youtube.com/watch?v=5BUw4Xuh82s][https://www.youtube.com/watch?v=AYUIR513DN8][https://www.youtube.com/watch?v=3e1TGz-esn0]<br>ほか || style="text-align:left;" | 商標権者は2021年から同名ベントを開催<br>YouTube上の[https://www.youtube.com/@niconico_official ニコニコ公式チャンネル]に掲載
|-
! VTuberスタイル
| [https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2021-111461/40/ja 登録第6558276号] || 第16類 || style="text-align:left;" | 芝崎 浩司 || 2022年5月19日 || [https://www.youtube.com/@VTuber-Style] || style="text-align:left;" | 商標権者は[https://vtuber-style.appli-style.co.jp/ 同名のVTuber専門誌]発行会社の代表取締役
|-
! Vtuberクエスト
| [https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2022-111139/40/ja 登録第6684227号] || 第9類<br>第35類<br>第41類 || style="text-align:left;" | 株式会社パンチ || 2023年3月27日 || [https://www.youtube.com/@vtuberquest] || style="text-align:left;" | 商標権者は[https://punchent.com/ Vtuberクエスト運営会社]
|-
! VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた
| [https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2024-091778/40/ja 登録第6911798号] || 第9類<br>第16類<br>第28類<br>第41類 || style="text-align:left;" | 株式会社KADOKAWA || 2025年3月25日 || [https://www.youtube.com/@Live-ON_official_ch]<br>ほか || style="text-align:left;" | 商標権者は原作書籍発行元・アニメ製作委員会メンバー<br>[https://www.youtube.com/@KADOKAWAanime KADOKAWAanime公式チャンネル]にも掲載あり
|-
! §N∞ナカジツ公式VTuber\ななみ六花
| [https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2024-065669/40/ja 登録第6931477号] || 第36類<br>第37類<br>第42類 || style="text-align:left;" | 株式会社不動産SHOPナカジツ || 2025年5月26日 || [https://www.youtube.com/watch?v=SULTDQLk0Xk][https://www.youtube.com/watch?v=fCMevMiS1Ig][https://www.youtube.com/watch?v=3rawxktt8c8]<br>ほか || style="text-align:left;" | 商標権者は[https://www.youtube.com/@schoolchannel1695/featured ナカジツおうちch]運営<br>チャンネル内の複数動画でななみ六花を起用
|-
|}
※2026年8月現在
 
<youtube width=356 height=200>AYUIR513DN8</youtube><br>「VTuber Fes Japan 2021 -DAY1」ダイジェスト
 
<youtube width=356 height=200>DSMWe8f-h3o</youtube><br>「ぶいでん」ノンクレジットOP
 
<youtube width=356 height=200>SULTDQLk0Xk</youtube><br>「ななみ六花」デビュー動画
 
これらはいずれも、「Tuber使用制限」ルールが名指しで対象とする行為(「Tuber」を含む正式名称・チャンネル名としての使用、及びそれを含む商標の登録、広告主としての使用)の全部または一部に該当する事例である。一部の事例に個別許諾が存在する可能性自体は完全には否定できないが、'''性質の異なる複数の事業者について同様の状態が確認できる'''ことから、この「Tuber使用制限」ルールが「Tuberを含む名称をYouTube上から一律・機械的に排除するルール」として運用されているとは考えにくい。
 
したがって、現行のルールは「'''『Tuber』という言葉は'''YouTubeクリエイターが非公式に使用することはあっても、'''広告主は『決して使うべきではない<ref>『』内は英語原文の「should never be used」を元に引用者が直接翻訳。</ref>』'''」という規定(英語原文:While “Tuber” can be used by YouTube creators informally, '''it should never be used by advertisers.''')の徹底を求めるという'''運用実務に限れば死文化に近い状態'''にあると評価できる。
===結論===
以上から、AVTuberが「AVTuber」を名乗って活動することについて、'''「Tuber使用制限」ルールだけを理由として禁止されるものではない'''。特にYouTubeを利用していない活動者については、そもそもYouTubeのサービス利用に関するガイドラインが直接適用される関係にない。
 
YouTubeを利用する場合には、YouTubeとの契約関係においてガイドラインが問題となる可能性はあるものの、それと「Tuber」という語についてGoogleが一般的な独占権を有するかという問題は別である。少なくとも、Googleが「YouTuber」「VTuber」等を自社の業務を表示する標章として広く認識されているものと主張して第三者の商標登録を排除できるとは限らないことは、「VtuberBaseball」異議申立事件からも確認できる。SNS上でよく見られる「Tuberという語はGoogleの管理下にある」「勝手に使うと危険」といった論調は、この点を踏まえていない。
 
したがって、'''YouTube公式のものと誤認されるような態様でない限り、「AVTuber」を名乗ることについて、この「Tuber使用制限」ルールにより名乗りが制限される可能性は極めて低い'''。


==「AVTuber」を巡る商標登録の状況==
==「AVTuber」を巡る商標登録の状況==