AVTuberと商標
この記事AVTuberと商標では、AVTuberに関係した商標関係のトピックを扱う。なお、主として日本における状況を記述する。
なお本記事においては、出願・登録された商標等において「AVtuber」と表記されているものは原文そのままに記載し、それ以外は「AVTuber」と表記する。
商標とは、商品やサービス(役務)の出所(誰が提供しているか)を識別するためのマーク(文字、図形、記号など)である。日本では商標法(昭和三十四年法律第百二十七号。以下、本記事において「法」という。)に基づき、特許庁に登録された商標については、指定された商品・役務について独占的に使用できる権利(法第25条「商標権の効力」)が与えられる。
ただし、商標権の効力はあらゆる場面に及ぶわけではなく、原則として「商標的使用」に限られる。「商標的使用」とは、関連する消費者(取引者・需要者)がその標章を「出所識別標識(ブランドの目印)」として認識する態様で使用する場合を指す。逆に、「記述的使用」(記述的表示)は、商標権の侵害とはならない[1]。両者の違いを「ニコニコ動画」(登録第6453637号)を例に説明すると以下のようになる。
- 商標的使用:当該標章を、自分の商品やサービスを他人のものと区別する(出所を特定させる)ために、ロゴやブランド名として目立つように使うこと。これが商標権の効力が及ぶ範囲である。(例:新しい動画配信サービスの名称として「ニコニコ動画」を使用する場合。無関係な第三者が行えば商標権侵害となる。)
- 記述的使用:当該語が持つ一般的な意味内容に従って、商品・サービスの内容や性質を説明するために用いられること。出所識別ではなく、普通名称・記述として使われているため、たとえ他人が商標登録していても原則として侵害にならない。(例:あるVTuberが「この動画はニコニコ動画でも配信しています」「私はニコニコ動画で活動しています」などと説明する場合。)
この区別は、裁判例においても繰り返し確認されている。例えば、
- 巨峰事件:ぶどうの品種名「巨峰」を出荷用段ボール箱に表示した行為は、箱自体の出所を表示するものではなく内容物を記述するものとして商標的使用が否定された。
- タカラ本みりん入り事件:調味料に「タカラ本みりん入り」と原材料を示した表示は記述的表示とされた。
- ブラザー事件:インクリボンの外箱に「ブラザー用」と適合機種を示した表示が指示的・説明的使用として非侵害と判断された。
などがある。これらは、使用態様全体(文字の大きさ・位置・文脈・取引実情など)を総合的に見て、出所識別機能を発揮していないと認定したものである。
重要な点は、商用利用だからといってすべての局面で使用が制限されるわけではないことである。法は「出所混同の防止(誰が商品やサービスを提供しているかについての消費者の混乱を防ぐこと)」を目的としており、一般的なジャンル名・カテゴリ名としての使用は、たとえ販売作品の中であっても基本的には自由である(例:動画販売作品の説明文中で「私はいつもニコニコ動画で配信しています」と自己紹介するなど。)。登録商標が存在しても、それが「説明」として使われている限り、商標権者は原則として差止を請求できない。ただし、文字の大きさ・位置・文脈・取引実情などから、それが本当に「説明」の範疇と言えるのかどうかは重要なポイントとなる。
「YouTuber」「VTuber」などの「Tuber」関連語は、現在では一般的なジャンル名・カテゴリ名として広く認知されており、それ単独では特許庁で広範に商標登録されているわけではない。VTuberについては、個別のクリエイター名やチャンネル名(例:特定のVTuber事務所の所属タレント名)、または他の単語と組み合わせた商標(例:「VTuberNFT」(登録第6433562号)など[2]。)は登録事例が多いが、「YouTuber」「VTuber」自体を独占的に登録して他者の使用を全面的に禁じるような広範な商標は存在しない。
これは、法第3条第1項第3号(単に商品・役務の品質等を表示する記述的標章)または同項第6号(他の商品・サービスと区別できる力がない商標)により、記述的・一般名称的な語句は原則登録できないためである。YouTuberやVTuberは「YouTube上で動画を配信する人」「バーチャルキャラクターを使った配信者」という役務の種類・特徴を直接的に表す語であるため、その語句単独では登録のハードルが高い。
実際、「VTuber」を商標登録しようとした事例(商標出願2020-087183・2021年11月11日拒絶査定)において特許庁は、この出願商標は消費者等が「動画配信をする仮想キャラクター(VTuber)に係る商品・役務であると認識するにとどまり」、「当該認識を超えて自他商品・役務の識別標識としては機能しないものというのが相当」とした上で、法第3条第1項第6号に該当するため商標登録できないと判断した(2021年6月9日付け拒絶理由通知書[3]から引用)。
SNS上ではしばしば「Tuberという語はGoogleの管理下にある」「勝手に使うと危険」といった論調が見受けられるが[4]、その際によく引用されるのが、以下のYouTubeガイドラインの「Tuber使用制限」ルールである。
- クリエイター向けガイドライン
- 多くのクリエイターが自らをYouTuberと呼んでくれるのは大変嬉しいことです。ただ、「YouTuber」または「Tuber」という言葉は、YouTubeにオリジナルの動画や音楽コンテンツを制作・アップロードしている人を指す場合にのみ使用していただきたいと考えています。
- また、「YouTuber」という言葉は、誰もが気軽に使えるように、カジュアルな表現にしたいと思っています。そのため、動画シリーズ、書籍、番組などの正式名称に「YouTuber」や「Tuber」を使用したり、これらの言葉を含むドメイン名、チャンネル名、商標を登録したりすることはご遠慮ください。これは、クリエイターコミュニティ全体のためにYouTubeの商標を保護する上で役立ちます。
- 広告主向けガイドライン
- 「Tuber」という言葉はYouTubeクリエイターが非公式に使用することはあっても、広告主が使用すべきではない。
2026年8月27日閲覧・自動翻訳[5]
しかしこのルールは、SNS上で語られるほど明快な法的拘束力を「Tuber」関連語に対して有しているわけではない。以下、いくつかの観点から整理していく。
なお、この節における主要論点は「Tuber」関連語の使用に制限がかかるか否かであり、構成もそれを前提としている。その他の論点には原則としてフォーカスを当てず、不正競争などに該当するような悪質な使用態様ではないことは、当然の前提として論じる。
このガイドラインは、その名称(クリエイター向けガイドライン・広告主向けガイドライン)からも明らかなとおり、YouTubeというプラットフォームの利用者(クリエイター・広告主)に向けて示された内部ポリシーである。したがって、その効力はYouTubeで活動する者に限られると考えられ、YouTubeを活動の場としていない配信者・事業者は、そもそもこの規定の名宛人ではない[6]。
なお、ガイドラインには「『YouTuber』または『Tuber』という言葉は、YouTubeにオリジナルの動画や音楽コンテンツを制作・アップロードしている人を指す場合にのみ使用していただきたい」と記述されており、少なくとも「Tuber」という語を使用する場面としてYouTube上での活動を明示している。ただし、この記述は「Tuber」という語を誰について用いるべきかというGoogleの考えを示すものであり(後段の「ご遠慮ください」「使用すべきではない」などの措置を行う理由の背景情報の扱いである)、それ自体からガイドラインの契約上の名宛人や法的拘束力の範囲まで確定するものではない。また、「Tuber」関連語について、YouTubeを利用していない者による使用まで禁止する旨が明示されているわけでもない。
AVTuberとして活動する者の中には、配信本体は他プラットフォームで行いつつ、告知・アーカイブ・ダイジェスト等の目的でYouTubeを併用している例は少なくないと考えられる。そうした場合にはYouTubeを利用する場合の想定も必要になってくるため、以下検討を続ける。
YouTube利用者については、ガイドラインによる契約上の拘束の問題を考慮する必要が生じるが、それと「Tuber」という語についてGoogleが第三者に対して商標権その他の法的権利を有するかという問題は別である。ガイドラインに記載されていることだけをもって、Googleが「Tuber」という語を一般的に独占できることになるわけではない。
前述のSNS上の論調のように、この「Tuber使用制限」ルールがGoogleによる強力な法的拘束力を伴うと認識される場合があるが、Google側は少なくとも日本において、「YouTuber」や「Tuber」といった語句そのものを、広範に独占する形で商標登録していない(J-PlatPat検索結果:2026年8月現在)。つまり、「Tuber使用制限」ルールが存在することをもって、Googleが「Tuber」関連語に関して商標権と同様の権利を行使できるわけではない。
なお、この「Tuber使用制限」ルールが商標権を巡る争いに持ち出されたことがある。登録商標「VtuberBaseball」(登録第6324800号)に対しGoogle側が異議を申し立てた事例(異議2021-900058:2022年1月12日決定)がある[7]。
この異議申し立てにおいてGoogleは、「YouTuber」「VTuber」がYouTubeから派生した標章であり、動画投稿者にその使用を許容する一方で自らは商標登録していないという運用方針(本件ガイドライン)をはじめとする複数の根拠を元に、本件商標の登録は法第4条第1項第7号(公序良俗)、同項第11号(類似)、同項第15号(混同のおそれ)に違反すると主張した。
これに対して特許庁は、Googleがこのようなガイドラインを作成していること自体は認めたものの、
- 「YouTuber」「VTuber」が一般に広く知られた語であることは認めつつも、それらがGoogleの業務に係る商品又は役務を表すものとして使用され、広く知られていたといい得る証拠を見いだすことはできないとして、Googleの業務に係る商品・役務を表示する商標として周知著名であるとは認めず
- 本件商標権者がGoogleの事業を妨害するなどの不正な目的を有していたことを裏付ける証拠も見いだせない
と判断し、上記いずれの規定にも該当しないとして、商標登録を維持した[8]。
この審決は、「YouTubeのガイドラインには法的拘束力がない」と判断したものではなく(そもそもガイドラインの内容に対する踏み込んだ判断自体を行っていない)、Googleのガイドラインの存在自体は前提とした上で、それだけでは公序良俗違反や不正目的の証拠にはならないと判断したものである点は注意が必要である。もっともこの審決の結論としては、「『Googleのガイドラインに違反する』という主張のみでは、本件商標の権利関係を左右できない」であった。また、ガイドラインの存在だけから「Tuber」がGoogleの独占的なブランドであるとも認定していない点も重要である。
なお、「Tuber使用制限」ルールは、「Tuber」という言葉についてYouTubeクリエイターによる非公式な使用を認めつつも、広告主による使用を強い言葉で制限している。 しかしながら実態として、「VTuber」を含む登録商標を名称とする公式媒体・公式チャンネルが、実際にYouTube上で複数継続的に運用されているという事実がある。以下の表でそれを示す。
| 商標 | 登録番号 | 区分 | 商標権者 | 登録日 | YouTubeリンク | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 戦国Vtuber | 登録第6206906号 | 第9類 第16類 |
株式会社マッシュ | 2019年12月13日 | [1] | 商標権者は戦国VTuberプロジェクト事務局運営 |
| VTuber Fes Japan | 登録第6490816号 | 第9類 第35類 第38類 |
株式会社ドワンゴ | 2021年12月23日 | [2][3][4] ほか |
商標権者は2021年から同名ベントを開催 YouTube上のニコニコ公式チャンネルに掲載 |
| VTuberスタイル | 登録第6558276号 | 第16類 | 芝崎 浩司 | 2022年5月19日 | [5] | 商標権者は同名のVTuber専門誌発行会社の代表取締役 |
| Vtuberクエスト | 登録第6684227号 | 第9類 第35類 第41類 |
株式会社パンチ | 2023年3月27日 | [6] | 商標権者はVtuberクエスト運営会社 |
| VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた | 登録第6911798号 | 第9類 第16類 第28類 第41類 |
株式会社KADOKAWA | 2025年3月25日 | [7] ほか |
商標権者は原作書籍発行元・アニメ製作委員会メンバー KADOKAWAanime公式チャンネルにも掲載あり |
| §N∞ナカジツ公式VTuber\ななみ六花 | 登録第6931477号 | 第36類 第37類 第42類 |
株式会社不動産SHOPナカジツ | 2025年5月26日 | [8][9][10] ほか |
商標権者はナカジツおうちch運営 チャンネル内の複数動画でななみ六花を起用 |
※2026年8月現在
「VTuber Fes Japan 2021 -DAY1」ダイジェスト
「ぶいでん」ノンクレジットOP
「ななみ六花」デビュー動画
これらはいずれも、「Tuber使用制限」ルールが名指しで対象とする行為(「Tuber」を含む正式名称・チャンネル名としての使用、及びそれを含む商標の登録、広告主としての使用)の全部または一部に該当する事例である。一部の事例に個別許諾が存在する可能性自体は完全には否定できないが、性質の異なる複数の事業者について同様の状態が確認できることから、この「Tuber使用制限」ルールが「Tuberを含む名称をYouTube上から一律・機械的に排除するルール」として運用されているとは考えにくい。
したがって、現行のルールは「『Tuber』という言葉はYouTubeクリエイターが非公式に使用することはあっても、広告主は『決して使うべきではない[9]』」という規定(英語原文:While “Tuber” can be used by YouTube creators informally, it should never be used by advertisers.)の徹底を求めるという運用実務に限れば死文化に近い状態にあると評価できる。
以上から、AVTuberが「AVTuber」を名乗って活動することについて、「Tuber使用制限」ルールだけを理由として禁止されるものではない。特にYouTubeを利用していない活動者については、そもそもYouTubeのサービス利用に関するガイドラインが直接適用される関係にない。
YouTubeを利用する場合には、YouTubeとの契約関係においてガイドラインが問題となる可能性はあるものの、それと「Tuber」という語についてGoogleが一般的な独占権を有するかという問題は別である。少なくとも、Googleが「YouTuber」「VTuber」等を自社の業務を表示する標章として広く認識されているものと主張して第三者の商標登録を排除できるとは限らないことは、「VtuberBaseball」異議申立事件からも確認できる。SNS上でよく見られる「Tuberという語はGoogleの管理下にある」「勝手に使うと危険」といった論調は、この点を踏まえていない。
したがって、YouTube公式のものと誤認されるような態様でない限り、「AVTuber」を名乗ることについて、この「Tuber使用制限」ルールにより名乗りが制限される可能性は極めて低い。
「AVTuber」についても、同様にジャンル名として使用されることが多く、広範な独占的登録は行われていない。ただし、特定の事業者が「AVTuber」を含む標章を登録・出願した事例がある。
| 商標 | 出願番号/ 登録番号 |
区分 | 出願人/ 商標権者 |
出願日 | 登録日 | 状態 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| AVtuberボイフル | 登録第6937146号 | 第45類 | 株式会社マックスグループ | 2024年11月6日 | 2025年6月11日 | 登録 | 商標権者はVoifull運営会社の関連企業 |
| AVtuber | 商標出願2026-007329 | 第9類 第41類 |
株式会社Fly | 2026年1月24日 | - | 審査中 | 出願人はえもえちプロダクション運営会社 刊行物等提出書[10]が3回提出 |
| AVtuber総選挙 | 商標出願2026-036045 | 第35類 第41類 |
株式会社エスペシオン | 2026年3月31日 | - | 審査中 | 出願人はえぶメディ運営会社 |
| AVtuberガチャ | 商標出願2026-049335 | 第35類 | 株式会社エスペシオン | 2026年4月29日 | - | 審査中 |
以下、各商標について個別に見ていく。
株式会社マックスグループは、「AVtuberボイフル」(文字商標)を第45類(娯楽・社交サービス等)で商標登録している(登録第6937146号、出願2024年11月6日、登録2025年6月11日)[11]。これは同社の関連企業である合資会社マックスが運営する音声通話・ライブチャットサービスVoifullにおけるブランド名として使用されるもので、同社は「ボイフル専属3D美女AVtuberとライブ配信」ができるサービスを提供している[11]。
これはサービスとしての「ボイフル」のブランドを保護するためのものであり、無関係な第三者が「AVtuberボイフル」という名称または類似した名称でサービスを開始したり、ロゴを酷似させたりすることは商標権侵害となる。一方で、単に「自分はAVTuberである」と自称したり、ジャンル名として「AVTuber」という言葉を使うこと自体を、この商標によって制限することはできない。
なおボイフルは、AVTuberを広く紹介する情報提供サイトえぶメディに対して
- 自社サイトへのリンクを含む広告を出稿(2026年4月以降)
- 公式Xアカウントにおいて自社専属AVtuberのえぶメディ掲載を宣伝[12](2026年3月26日)
- Voifull公式アンバサダー等5名の第3回AVtuber総選挙への参加[13](2026年8月23日~30日)
というように積極的に連携している。これは、「AVTuber」という言葉を記述的・一般名称的に使用するWebサイトやイベントへの参加であり、現状において、マックス社が「AVTuber」という呼称の一般的な使用を制限しようとする状況にはないと考えられる。
えもえちプロダクションを運営する株式会社Flyは「AVtuber」という語句単体での商標を第9類(ダウンロード販売等)及び第41類(ストリーミング等)で出願(商標出願2026-007329)しており(出願2026年1月24日)、現在審査中である[12]。なおJ-PlatPatに掲載された情報によれば、刊行物等提出書[10]が3回提出され、特許庁からの刊行物等提出による通知書の発出も3回行われている。詳しくは出願番号リンク先ページの「経過情報」をクリックすれば確認できる。
これはまだ登録が確定していない段階であり、2026年8月時点では登録による独占的権利は発生していない。特許庁がこの出願を実体審査の結果登録するか、あるいは「一般的に使われている名称(普通名称・慣用商標)」として拒絶するかは現時点では不明である。ただし仮に登録されたとしても、前述の「記述的使用」の原則に基づき、個々の活動者がジャンル名として「AVTuber」を名乗る行為までが直ちに禁止される可能性は極めて低い。
えぶメディを運営する株式会社エスペシオンは「AVtuber総選挙」の商標を第35類(広告・卸小売等)及び第41類(娯楽の提供・映像配信等)で出願(商標出願2026-036045)しており(出願2026年3月31日)、現在審査中である。なおJ-PlatPatに掲載された情報によれば、商標登録願以外の情報は現在登録されていない。詳しくは出願番号リンク先ページの「経過情報」をクリックすれば確認できる。
またこれとは別に、「AVtuberガチャ」の商標も第35類で出願(商標出願2026-049335)しており、(出願2026年4月29日)、現在審査中である[13]。なおJ-PlatPatに掲載された情報によれば、こちらも商標登録願以外の情報は現在登録されていない。
これはまだ登録が確定していない段階であり、2026年8月時点では登録による独占的権利は発生していない。特許庁がこれらの出願を実体審査の結果登録するか、あるいは拒絶するかは現時点では不明である。
また、仮に登録されたとしても、登録の対象はあくまで「AVtuber総選挙」や「AVtuberガチャ」という結合商標であり、「AVTuber」単体そのものに直ちに独占権が及ぶものではない。更に、前述の「記述的使用」の原則がある上に、えぶメディが「AVTuber」という語句を一般名称的に使用してサイトを運営し、広く参加者を募ってAVtuber総選挙を複数回開催している現状がある以上、個々の活動者がジャンル名として「AVTuber」を名乗る行為が制限される可能性は、事実上考えられない。
商標登録はあくまで「特定のブランドとしての名前」を守るための制度であり、「言葉そのもの」を辞書から消し去り、他人の発言を封じるためのものではない。AVTuberとして活動する個人や団体、およびAVTuber Wikiやえぶメディのような情報媒体は、それが特定の登録商標のブランドを盗用・模倣する使用態様でない限り(=記述的使用である限り)、商用・非商用を問わず「AVTuber」という言葉を継続して使用することが可能である。
そして商標に関する議論においては、「登録されているか否か」や「商用利用か否か」といった単純な基準だけではなく、実際の使用態様や市場における認識が重要な判断要素となる。
ただし、具体的なロゴのデザインや、特定のサービス名と混同されやすい名称の使用については、個別具体的な判断が必要となる。不安がある場合は、弁理士などの専門家への相談が推奨される。
- ↑ この考え方(いわゆる「商標的使用論」)は、2014年法改正(特許法等の一部を改正する法律(平成二十六年法律第三十六号))で新設された法第26条第1項第6号により、条文上もその趣旨が明文化されている。同号は、商標権の効力が及ばない範囲の一つとして「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」を挙げており、平たく言えば「出所識別機能を発揮しないような(商標的使用にあたらない)使用には、そもそも商標権の効力が及ばない」ことを条文で確認したものである。なお、同改正以前は、この考え方は主として裁判例の集積によって形成されてきた。後述する各裁判例はいずれもこの2014年改正より前の判決であり、条文が整備される以前から「使用態様全体を見て出所識別機能を発揮しているか」という実質判断が行われてきたことを示している。
- ↑ この「VTuberNFT」は商標登録後、Google米国法人が異議を申し立てたが、結局Googleは後述の「VTuberBaseball」への異議が認められなかった後にこの異議を取り下げている。
- ↑ 法第15条の2に基づき、審査官が出願人に対して拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与える通知書。出願人が意見書を提出しない場合は拒絶査定となる。
- ↑ 株式会社PANDORAによる「XTuber」の商標登録(登録第7013107号)の際にも見られた。「XTuber」を商標登録した──あるVTuber企業の発表が物議 「YouTubeのガイドライン違反では?」 出願経緯を聞いた参照。
- ↑ なお、英語原文は以下のとおり。
Using the word “YouTuber”- Guidelines for creators
- We love that so many creators like to call themselves YouTubers. We just ask that “YouTuber” or “Tuber” is only used when talking about a person creating and uploading original video or music content to YouTube.
- We also want to keep "YouTuber" casual. That way everyone can use it. So please don’t use “YouTuber” or “Tuber” in official names of things like video series, books, and programs, or register domains, channel names, or trademarks that include those words. This’ll help us protect the YouTube trademark for the whole creator community.
- Guidelines for advertisers
- While “Tuber” can be used by YouTube creators informally, it should never be used by advertisers.
- ↑ 一例を上げると、Voifull専属AVTuberの大半が該当する。
- ↑ J-PlatPat掲載ページの「全部異議2021-900058」をクリックすると審決(商標登録維持)の全文を読むことができる。
- ↑ なお、Googleはこの「Tuber使用制限」ルールについて、単に自社の利益を守るためのルールというだけではなく、動画作成者が「YouTuber」や「Tuber」といった語を自由に使用できる環境を維持することが、表現の自由に寄与するという公益的な役割を有する旨も主張していた。しかし、特許庁の審決における法第4条第1項第7号の判断では、この公益的意義を独立した判断理由として評価するのではなく、「YouTuber」「VTuber」がGoogleの業務に係る商品・役務を表示するものとして広く認識されていたか、本件商標権者にGoogleの事業を妨害するなどの不正目的があったか、といった観点から判断している。したがって、この審決は、Googleが主張した「表現の自由に寄与するという公益的役割」そのものの当否を判断したものではない。
- ↑ 『』内は英語原文の「should never be used」を元に引用者が直接翻訳。
- ↑ 10.0 10.1 商標法施行規則(昭和三十五年通商産業省令第十三号)第19条第1項の規定により、特許庁長官に対し、その商標登録出願について「登録することができないものである旨の情報を提供する」書類。誰であっても提出できる。
- ↑ なおマックス社は同時に「Vtuberライブチャット ボイフル」(登録第6937145号)、「Voifull」(登録第6937181号)なども商標登録している。
- ↑ なおFly社は同時に「えもえち」(商標出願2026-007327)および「えもえちプロダクション」(商標出願2026-007328)も出願しており、こちらも審査中である。
- ↑ なおエスペシオン社は同時に「えぶガチャ」(商標出願2026-049336)を出願しており、こちらも審査中である。