「Tuber」関連語に対するGoogleの姿勢

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この記事では、「YouTuber」・「VTuber」・「AVTuber」などの「Tuber」関連語に対するGoogleの姿勢について、日本における状況を中心に記述する。

概要

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GoogleはYouTubeで事業を展開するにあたり「YouTube」(登録第4999383号)や「YouTube Theater」(登録第6604912号)などの多くの商標を登録して知的財産権を確保している。しかし、「YouTuber」や「VTuber」といった語句(以下、本記事において「Tuber」関連語という。)そのものを、広範に独占する形で商標登録はしていない(J-PlatPat検索結果:2026年9月現在)。 これは、AVTuberと商標でも触れたように、商標法(昭和三十四年法律第百二十七号。以下、本記事において「法」という。)第3条第1項第3号(単に商品・役務の品質等を表示する記述的標章)または同項第6号(他の商品・サービスと区別できる力がない商標)により、記述的・一般名称的な語句は原則登録できないためである。YouTuberやVTuberは「YouTube上で動画を配信する人」「バーチャルキャラクターを使った配信者」という役務の種類・特徴を直接的に表す語であるため、特に「Tuber」関連語が広く普及した後の段階においては、「YouTube」の商標権利者であるGoogleといえども「Tuber」単独では登録のハードルが高い[1]

しかしこれは、Googleが「Tuber」関連語に対し知財実務的に消極的であったことを意味しない。むしろ、以下に見ていくように複数の法的措置に踏み切る、あるいはブランドガイドラインを制定するなどの措置を講じてきた経緯がある。以下、その経緯を明らかにするとともに、Googleが「Tuber」関連語に対しどのような法的地位を有しているかを整理していく。

「ニャンチューバー」審判請求事件

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「Tuber」関連語の商標を登録していないGoogleだが、法の枠組みを用いて、他者の「Tuber」関連語の登録商標の無効を請求した事例が存在する。

「ニャンチューバー」(登録第5999063号)は株式会社PECO[2]の登録商標であるが、Googleは2018年10月24日に本件商標の登録無効を求める審判を請求した(無効2018-890081、2019年12月26日審決)[3]

この請求においてGoogleは、本件商標は法第4条第1項第11号(類似)・第10号(未登録商標との類似)・第15号(混同のおそれ)・第19号(不正目的)・第7号(公序良俗)違反を理由に以下のように主張し、商標登録の無効を請求した。

  • 「YouTube」は著名な商標である。
  • 「YouTuber」も「YouTube」と密接に関連する語である。
  • 「ニャンチューバー」は「YouTube」や「YouTuber」を想起させる
  • PECO社はInstagramを模した『ニャンスタグラム』等の名称も用いており、著名商標への常習的なただ乗りを行っている。

しかし特許庁は、以下のとおり判断した。

  • 「ニャンチューバー」と「YouTube」「YouTuber」について、中間部の「チュー」の音を共通にするとしても、語頭音(「ニャン」対「ユー」)の顕著な差異および「特定の観念を生じない造語」と「著名な動画共有サイト」という観念上の明確な相違により非類似である。
  • PECO社が不正目的を持っていると裏付ける具体的事実がない

そして、審判官は上記のいずれの規定にも該当しないとし、Googleによる登録無効の審判請求は不成立(成り立たない)と審決された。

YouTubeガイドライン(「Tuber」使用制限ルール)

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一方、SNS上ではしばしば「Tuberという語はGoogleの管理下にある」「勝手に使うと危険」といった論調が見受けられるが[4]、その際によく引用されるのが、以下のYouTubeガイドラインの一節「『ユーチューバー』という言葉を使う」にある「Tuber」関連語の使用制限規定(以下、本記事において「『Tuber』使用制限ルール」という。)である。

「ユーチューバー」という言葉を使う

  • クリエイター向けガイドライン
多くのクリエイターが自らをYouTuberと呼んでくれるのは大変嬉しいことです。ただ、「YouTuber」または「Tuber」という言葉は、YouTubeにオリジナルの動画や音楽コンテンツを制作・アップロードしている人を指す場合にのみ使用していただきたいと考えています。
また、「YouTuber」という言葉は、誰もが気軽に使えるように、カジュアルな表現にしたいと思っています。そのため、動画シリーズ、書籍、番組などの正式名称に「YouTuber」や「Tuber」を使用したり、これらの言葉を含むドメイン名、チャンネル名、商標を登録したりすることはご遠慮ください。これは、クリエイターコミュニティ全体のためにYouTubeの商標を保護する上で役立ちます。
  • 広告主向けガイドライン
「Tuber」という言葉はYouTubeクリエイターが非公式に使用することはあっても、広告主が使用すべきではない

2026年8月27日閲覧・自動翻訳[5]

しかしこのルールは、SNS上で語られるほど明快な法的拘束力を「Tuber」関連語に対して有しているわけではない。以下、いくつかの観点から整理していく。

なお、ここでの主要論点は「Tuber」関連語の使用に制限がかかるか否かであり、構成もそれを前提としている。その他の論点には原則としてフォーカスを当てず、不正競争などに該当するような悪質な使用態様ではないことは、当然の前提として論じる。

そもそも誰を拘束するルールか

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このガイドラインは、その名称(クリエイター向けガイドライン広告主向けガイドライン)からも明らかなとおり、YouTubeというプラットフォームの利用者(クリエイター・広告主)に向けて示された内部ポリシーである。したがって、その効力はYouTubeで活動する者に限られると考えられ、YouTubeを活動の場としていない配信者・事業者は、そもそもこの規定の名宛人ではない[6]

なお、ガイドラインには「『YouTuber』または『Tuber』という言葉は、YouTubeにオリジナルの動画や音楽コンテンツを制作・アップロードしている人を指す場合にのみ使用していただきたい」と記述されており、少なくとも「Tuber」という語を使用する場面としてYouTube上での活動を明示している。ただし、この記述は「Tuber」という語を誰について用いるべきかというGoogleの考えを示すものであり(後段の「ご遠慮ください」「使用すべきではない」などの措置を行う理由の背景情報の扱いである)、それ自体からガイドラインの契約上の名宛人や法的拘束力の範囲まで確定するものではない。また、「Tuber」関連語について、YouTubeを利用していない者による使用まで禁止する旨が明示されているわけでもない

「拘束力」の対象と有無

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AVTuberなどの配信活動者の中には、配信本体は他プラットフォームで行いつつ、告知・アーカイブ・ダイジェスト等の目的でYouTubeを併用している例は少なくないと考えられる。そうした場合にはYouTubeを利用する場合の想定も必要になってくるため、以下検討を続ける。

YouTube利用者については、ガイドラインによる契約上の拘束の問題を考慮する必要が生じるが、それと「Tuber」という語についてGoogleが第三者に対して商標権その他の法的権利を有するかという問題は別である。ガイドラインに記載されていることだけをもって、Googleが「Tuber」という語を一般的に独占できることになるわけではない。

前述のSNS上の論調のように、この「Tuber」使用制限ルールがGoogleによる強力な法的拘束力を伴うと認識される場合があるが、概要にもあるように、Google側は少なくとも日本において、「YouTuber」や「Tuber」といった語句そのものを、広範に独占する形で商標登録していない。つまり、「Tuber」使用制限ルールが存在することをもってしても、Googleが「Tuber」関連語に関して商標権と同様の権利を行使できるわけではない。

「VtuberBaseball」異議申立事件

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また、「ニャンチューバー」審判請求事件とは別に、他者の登録商標にGoogleが意義を申し立てた事例も存在する。この事例においては、先述の「Tuber」使用制限ルールも根拠の一つとして持ち出された。

登録商標「VtuberBaseball」(登録第6324800号)に対しGoogle側が異議を申し立てた事例(異議2021-900058:2022年1月12日決定)がある[7]

この異議申し立てにおいてGoogleは、「YouTuber」「VTuber」がYouTubeから派生した標章であり、動画投稿者にその使用を許容する一方で自らは商標登録していないという運用方針(本件ガイドライン)をはじめとする複数の根拠を元に、本件商標の登録は法第4条第1項第7号(公序良俗)、同項第11号(類似)、同項第15号(混同のおそれ)に違反すると主張した。

これに対して特許庁は、Googleがこのようなガイドラインを作成していること自体は認めたものの、

  • 「YouTuber」「VTuber」が一般に広く知られた語であることは認めつつも、それらがGoogleの業務に係る商品又は役務を表すものとして使用され、広く知られていたといい得る証拠を見いだすことはできないとして、Googleの業務に係る商品・役務を表示する商標として周知著名であるとは認めず
  • 本件商標権者がGoogleの事業を妨害するなどの不正な目的を有していたことを裏付ける証拠も見いだせない

と判断し、上記いずれの規定にも該当しないとして、商標登録を維持した[8]

この審決は、「YouTubeのガイドラインには法的拘束力がない」と判断したものではなく(そもそもガイドラインの内容に対する踏み込んだ判断自体を行っていない)、Googleのガイドラインの存在自体は前提とした上で、それだけでは公序良俗違反や不正目的の証拠にはならないと判断したものである点は注意が必要である。もっともこの審決の結論としては、「『Googleのガイドラインに違反する』という主張のみでは、本件商標の権利関係を左右できない」であった。また、ガイドラインの存在だけから「Tuber」がGoogleの独占的なブランドであるとも認定していない点も重要である。

実務上の運用実態

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なお、「Tuber」使用制限ルールは、「Tuber」という言葉についてYouTubeクリエイターによる非公式な使用を認めつつも、広告主による使用を強い言葉で制限している。 しかしながら実態として、「VTuber」を含む登録商標を名称とする公式媒体・公式チャンネルが、実際にYouTube上で複数継続的に運用されているという事実がある。以下の表でそれを示す。

「VTuber」関連商標権者による公式YouTubeチャンネル運用状況
商標 登録番号 区分 商標権者 登録日 YouTubeリンク 備考
戦国Vtuber 登録第6206906号 第9類
第16類
株式会社マッシュ 2019年12月13日 [1] 商標権者は戦国VTuberプロジェクト事務局運営
VTuber Fes Japan 登録第6490816号 第9類
第35類
第38類
株式会社ドワンゴ 2021年12月23日 [2][3][4]
ほか
商標権者は2021年から同名ベントを開催
YouTube上のニコニコ公式チャンネルに掲載
VTuberスタイル 登録第6558276号 第16類 芝崎 浩司 2022年5月19日 [5] 商標権者は同名のVTuber専門誌発行会社の代表取締役
Vtuberクエスト 登録第6684227号 第9類
第35類
第41類
株式会社パンチ 2023年3月27日 [6] 商標権者はVtuberクエスト運営会社
VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 登録第6911798号 第9類
第16類
第28類
第41類
株式会社KADOKAWA 2025年3月25日 [7]
ほか
商標権者は原作書籍発行元・アニメ製作委員会メンバー
KADOKAWAanime公式チャンネルにも掲載あり
§N∞ナカジツ公式VTuber\ななみ六花 登録第6931477号 第36類
第37類
第42類
株式会社不動産SHOPナカジツ 2025年5月26日 [8][9][10]
ほか
商標権者はナカジツおうちch運営
チャンネル内の複数動画でななみ六花を起用

※2026年8月現在


「VTuber Fes Japan 2021 -DAY1」ダイジェスト


「ぶいでん」ノンクレジットOP


「ななみ六花」デビュー動画

これらはいずれも、「Tuber使用制限」ルールが名指しで対象とする行為(「Tuber」を含む正式名称・チャンネル名としての使用、及びそれを含む商標の登録、広告主としての使用)の全部または一部に該当する事例である。一部の事例に個別許諾が存在する可能性自体は完全には否定できないが、性質の異なる複数の事業者について同様の状態が確認できることから、この「Tuber使用制限」ルールが「Tuberを含む名称をYouTube上から一律・機械的に排除するルール」として運用されているとは考えにくい。

したがって、現行のルールは「『Tuber』という言葉はYouTubeクリエイターが非公式に使用することはあっても、広告主は『決して使うべきではない[9]」という規定(英語原文:While “Tuber” can be used by YouTube creators informally, it should never be used by advertisers.)の徹底を求めるという運用実務に限れば死文化に近い状態にあると評価できる。

結論

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以上から、例えばAVTuberが「AVTuber」を名乗って活動することについて、「Tuber使用制限」ルールだけを理由として禁止されるものではない。特にYouTubeを利用していない活動者については、そもそもYouTubeのサービス利用に関するガイドラインが直接適用される関係にない。

YouTubeを利用する場合には、YouTubeとの契約関係においてガイドラインが問題となる可能性はあるものの、それと「Tuber」という語についてGoogleが一般的な独占権を有するかという問題は別である。少なくとも、Googleが「YouTuber」「VTuber」等を自社の業務を表示する標章として広く認識されているものと主張して第三者の商標登録を排除できるとは限らないことは、「ニャンチューバー」審判請求事件や「VtuberBaseball」異議申立事件からも確認できる。SNS上でよく見られる「Tuberという語はGoogleの管理下にある」「勝手に使うと危険」といった論調は、この点を踏まえていない。

したがって、YouTube公式のものと誤認されるような態様でない限り、「AVTuber」などの「Tuber」を名乗ることについて、この「Tuber使用制限」ルールにより名乗りが制限される可能性は極めて低い

注釈

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  1. YouTuberもVTuberもGoogleが考案した語句ではなく自然発生的かつ急速に広まった語句であるため、Googleであっても普及する前に商標登録が実務的に可能であったかは疑問が残る。
  2. ペット関連サービスや動物病院の運営を手掛けるベンチャー企業。
  3. J-PlatPat掲載ページの「無効2018-890081」をクリックすると審決(審判請求無効)の全文を読むことができる。
  4. 株式会社PANDORAによる「XTuber」の商標登録(登録第7013107号)の際にも見られた。「XTuber」を商標登録した──あるVTuber企業の発表が物議 「YouTubeのガイドライン違反では?」 出願経緯を聞いた参照。
  5. なお、英語原文は以下のとおり。
    Using the word “YouTuber”
    • Guidelines for creators
    We love that so many creators like to call themselves YouTubers. We just ask that “YouTuber” or “Tuber” is only used when talking about a person creating and uploading original video or music content to YouTube.
    We also want to keep "YouTuber" casual. That way everyone can use it. So please don’t use “YouTuber” or “Tuber” in official names of things like video series, books, and programs, or register domains, channel names, or trademarks that include those words. This’ll help us protect the YouTube trademark for the whole creator community.
    • Guidelines for advertisers
    While “Tuber” can be used by YouTube creators informally, it should never be used by advertisers.
  6. 一例を上げると、Voifull専属AVTuberの大半が該当する。
  7. J-PlatPat掲載ページの「全部異議2021-900058」をクリックすると審決(商標登録維持)の全文を読むことができる。
  8. なお、Googleはこの「Tuber使用制限」ルールについて、単に自社の利益を守るためのルールというだけではなく、動画作成者が「YouTuber」や「Tuber」といった語を自由に使用できる環境を維持することが、表現の自由に寄与するという公益的な役割を有する旨も主張していた。しかし、特許庁の審決における法第4条第1項第7号の判断では、この公益的意義を独立した判断理由として評価するのではなく、「YouTuber」「VTuber」がGoogleの業務に係る商品・役務を表示するものとして広く認識されていたか、本件商標権者にGoogleの事業を妨害するなどの不正目的があったか、といった観点から判断している。したがって、この審決は、Googleが主張した「表現の自由に寄与するという公益的役割」そのものの当否を判断したものではない。
  9. 『』内は英語原文の「should never be used」を元に引用者が直接翻訳。