商標出願「AVtuber」に係る審査経過
この記事では、商標出願「AVtuber」(2026-007329)に係る審査経過を解説する。
背景情報
編集この記事を読むに当たって参照しておきたい背景情報は次のとおりである。
「AVtuber」商標出願に至るまでの株式会社Fly及び同社が運営するえもえちプロダクションの事業展開など
えもえちプロダクションの歴史的位置づけ
「AVTuber」という存在の定義
「AVTuber」という言葉の沿革
商標制度
さらに、この中で特に重要な事実は以下の2点である。
- AVTuber文化圏内では「AVTuber」はジャンル定義語あるいはジャンル総称として認識されており、えもえちプロダクションに限定して用いられる言葉ではない。
- その一方で、えもえちプロダクションと柚木凛がAVTuberを自称した事例として史上初である点はAVTuber文化圏内で概ね見解の一致を見ている。実態として史上初であったかについては諸説ある。
「AVtuber」の出願
編集Fly社は2026年1月24日に、商標法(昭和三十四年法律第百二十七号。以下、本記事において「法」という。)第5条に基づき、以下の内容で「AVtuber」を特許庁へ商標出願(2026-007329)した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出願番号 | 商願2026-7329 |
| 出願日 | 令和8年1月24日(2026.1.24) |
| 出願人 | 株式会社Fly |
| 商標登録を受けようとする商標 | AVtuber |
| 指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分 |
【第9類】
【第41類】
|
刊行物等提出書による情報提供
編集この出願は2026年2月3日に公開されたが、その後刊行物等提出書が以下のとおり3回提出され、特許庁長官からの刊行物等提出による通知書の発出も3回行われている。
| 連番 | 刊行物等提出書 | 刊行物等提出による通知書 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1 | 2026年3月23日 | 2026年4月9日 | 甲第11号証が拒絶理由通知書に引用 |
| 2 | 2026年3月29日 | 2026年4月17日 | |
| 3 | 2026年4月23日 | 2026年5月18日 |
ここで刊行物等提出書について説明する。これは商標法施行規則(昭和三十五年通商産業省令第十三号)第19条第1項の規定により、特許庁長官に対し、その商標登録出願について「登録することができないものである旨の情報を提供する」書類であり、誰であっても提出できる。そして、特許庁は出願人に対し、情報提供があったという事実を「刊行物等提出による通知書」により通知する。
つまりこの一連の記録は、「この『AVtuber』は商標登録すべきでない」という情報提供が3回にわたって行われ、特許庁がそれを3回とも受理したことを意味する。
ただしここから読み取れるのは、
- 「AVtuber」を商標登録すべきでないと考える単独または複数の誰かが、3回にわたって情報提供した。
- 特許庁はそれを規定どおりに受理し、Fly社に通知した。
ということのみである。それに加えて、後述の拒絶理由通知書によれば、
- 3月23日提出の刊行物等提出書の甲第11号証が拒絶理由通知書に引用された。
ということは分かっている。それ以外の、刊行物等提出書に何が書かれていたか、甲第11号証以外の情報を特許庁がどのように審査実務上で扱ったかまではわからない[2]。
拒絶理由通知書の発出
編集2026年10月5日付けで、特許庁審査官は商標出願「AVtuber」に対し法第15条の2に基づき拒絶理由通知書を発出した。
ここで拒絶理由通知書について説明する。これは特許庁審査官が出願商標を審査した結果「このままでは登録できない」と判断した場合に、出願人に対しその理由を通知し、同時に出願人に対し反論や修正の機会を与えるための書類である。
つまりこの段階で一旦は、「AVtuber」の出願は「登録できない」との判断が示されたことになる。ただしFly社はこれに対して意見書の提出により反論することができる(ただし理由書の発送から40日以内)ため、「AVtuber」の出願が拒絶と決まった訳では無い。Fly社が意見書を提出すれば再度審査が行われ、反論が認められ拒絶理由が解消されたと審査官が判断した場合には、登録査定に進むことになる。
一方、意見書を提出しないか、提出しても拒絶理由が解消されていないと審査官が判断した場合は、拒絶査定に進むことになる。
話を戻し、実際の拒絶理由通知書の内容を見ていく。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 起案日 | 令和8年10月5日 |
| 適用条文 | 法第3条第1項第6号(第1号から第5号までのほか、識別力のないもの) |
| 本文 |
この商標登録出願については、商標登録をすることができない次の理由がありますので、商標法第15条の2(又は同法第15条の3第1項)に基づきその理由を通知します。 なお、意見書の提出があったときは、商標登録の可否について再度審査することになります。 |
| 理由 | この商標登録出願に係る商標(以下「本願商標」といいます)は、「AVtuber」の文字を標準文字で表してなります。
ところで、「AVtuber」の文字は、別掲のとおり、「2Dや3Dのアバターを用いて成人向け(R-18要素やセンシティブな内容)の配信やコンテンツ発信を行うバーチャル配信者の総称」ほどの意味合いを有するものとして、広く知られています。 よって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当します。 |
| 別掲 |
1.三軸工房のウェブサイト 2.ニコニコ大百科のウェブサイト 3.ピクシブ百科事典のウェブサイト (注)上記表示中、インターネットの最終閲覧は、2026年9月28日です。 |
拒絶理由について、平易な表現に適宜置き換えつつ解説する。
この通知書において特許庁審査官は、以下のように指摘している。
- 「AVtuber」は「2Dや3Dのアバターを用いて成人向け(R-18要素やセンシティブな内容)の配信やコンテンツ発信を行うバーチャル配信者の総称」ほどの意味合いを有するものとして広く知られている。
- 「AVtuber」を出願のとおりのダウンロード販売(第9類)やストリーミング(第41類)等の商品・サービスに使用した場合、取引者や消費者は「2Dや3Dのアバターを用いて成人向けの配信やコンテンツ発信を行うバーチャル配信者」に関係する商品やサービスと認識するにとどまり、この認識を超えて、特定の者(社)が提供している商品・サービスであることを示すマークとしては機能しないというのが相当である。
- つまり「AVtuber」は、特定の者(社)の業務に関係する商品・サービスであると、取引者や消費者が認識することができない商標である。
つまり、取引者や消費者の間で「ジャンルの総称」として知られている言葉を商標として用いても、その商標は「誰が商品やサービスを提供しているか」を識別する能力を発揮できないと言っているのである。そして、これは法第3条第1項第6号
(商標登録の要件)
第3条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
(略)
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
に該当するため、商標登録をすることができないと結論づけた。
そして審査官は、「広く知られている」ことの根拠として、別掲のWebサイトを挙げている。これは、審査官が自ら調べたもの(三軸工房、ニコニコ大百科)と、刊行物等提出書による情報提供(ピクシブ百科事典)が用いられている。
現時点の状況
編集2026年10月時点では、この出願はまだ審査中である。登録拒絶は確定していない段階であり、Fly社がどのような意見書を提出するか、あるいは提出しないかは現時点では不明である。